異常な自己抗原「ネオセルフ」による新たな自己免疫疾患発症機構

大阪大学微生物病研究所免疫化学分野


ネオセルフ

自己免疫疾患は、自己組織に対して免疫応答が起こることにより引き起こされる疾患です。自己免疫疾患の発症原因は依然として不明であるが、ほとんどの自己免疫疾患で様々な自己抗体が産生されます。従って、自己抗体の標的分子、産生機序、病原性を解明することは自己免疫疾患の病態、病因を解明する上で重要です。一方、自己免疫疾患の原因遺伝子の検索として全ゲノム解析が実施された結果、以前より指摘されてきたとおりMajor Histocompatibility Complex (MHC)、特に、MHCクラスIIがもっとも疾患感受性に関わっていることが再認識されています。MHC分子はペプチド抗原をT細胞に提示するのが主要な機能であるため、自己免疫疾患の原因はT細胞応答の異常ではないかと考えられております。しかし、臓器特異的な自己免疫疾患を引き起こすようなペプチド抗原を含めて、MHCクラスII分子がどのように自己免疫疾患の発症に関与しているかは明らかでありません。

最近、当研究室では、MHCクラスII分子が小胞体内のミスフォールド蛋白質と結合すると、分子シャペロンとしてそれらを分解させずに細胞外へ輸送することを発見しました(Jiang et al. Int. Immunol. 2013)。さらに、多くの自己免疫疾患に認められる自己抗体が、ミスフォールド蛋白質/MHCクラスII分子複合体を認識していることが明らかになりました。さらに、驚くべきことに、自己抗体のミスフォールド蛋白質/MHCクラスII分子複合体に対する認識は、今までに知られていたMHCクラスII分子の自己免疫疾患感受性と非常に強く相関することが判明しました。従って、ミスフォールド蛋白質/MHCクラスII分子複合体が自己免疫疾患の新たな標的である可能性が考えられました(Jin et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2014Tanimura et al. Blood 2015)。

細胞内では正常蛋白質ばかりでなく、うまく折りたたまれなかったミスフォールド蛋白質(変性蛋白質)は常に作られています。しかし、そのようなミスフォールド蛋白質は細胞内でERAD等のメカニズムによって速やかに分解され、通常、細胞外に運ばれることはありません。従って、免疫システムはそのようなミスフォールドタンパク質に寛容になっていないと考えられます。ところが、そのような細胞内の変性蛋白質が自己免疫疾患に感受性の主要組織適合抗原と結合すると、ミスフォールド蛋白質が主要組織適合抗原によって細胞外に輸送され、それが正常の自己抗原とは異なる「ネオセルフ」として自己抗体の標的になっているのではないかと考えられます。MHCクラスII分子は、通常、非免疫細胞ではほとんど発現していません。ところが、普段MHCクラスII分子を発現していない細胞でも、IFN-γ等の刺激が加わると、特にヒト細胞では非常に強くMHCクラスII分子の発現が誘導されます。従って、ウイルス感染等によって炎症が引き起こされると、免疫細胞から産生されたIFN-γ等によって、普段MHCクラスII分子が発現していない細胞にもMHCクラスII分子の発現が誘導されます。そうすると、今まで分解されていた細胞内のミスフォールド蛋白質がMHCクラスII分子によって細胞外へ輸送されてしまい、「ネオセルフ」としてミスフォールド蛋白質に対する自己抗体の産生が引き起こされる可能性が考えられます。実際、自己免疫疾患は、ウイルス感染等をきっかけとして発病することが知られていることに加えて、多くの自己免疫疾患の標的組織では、非免疫細胞で異常なMHCクラスII分子の強発現が認められます。このような自己免疫疾患の発症機序は、今までに考えられてきた発症機序とは全く異なりますが、Science誌やBlood誌でも新たな自己免疫疾患の発症メカニズムとして紹介されております(Hurtley, Science 2014Thiagarajan, Blood 2015)。

このように、MHCクラスII分子が誤って細胞内のミスフォールド蛋白質を細胞外へ輸送してしまうことが自己免疫疾患の原因、特に自己抗体の産生原因である可能性があります。実際、関節リウマチ以外の疾患でもMHCクラスII分子と複合体を形成したミスフォールド蛋白質に自己抗体が認められることがわかってきてきました。ただ、自己抗体にはIgGのものが多いため、従来から言われているように自己抗体の産生には抗原特異的なT細胞も関わると思われます。そこで、当研究室では、「ネオセルフ」複合体であるミスフォオールド蛋白質/MHCクラスII分子がどのように自己抗体の産生を誘導するか、ミスフォオールド蛋白質/MHCクラスII分子に対する自己抗体がどのように組織傷害に関与するか等をさらに研究を進めております。さらに、ミスフォールド蛋白質/MHCクラスII分子を標的とした新たな自己免疫疾患の治療薬も考えられ、自己免疫疾患の原因を治すような治療法の開発が期待されます(Arase et al., J. Biochem. 2015Arase, Adv. Immunol. 2016)。